あの日、池で起きたこと

私の周りにはちょっと変わった友人が多い。
「類は友を呼ぶ」という諺はあながち間違っちゃいない。
今日はその中の一人、Aちゃんのお話。

Aちゃんはもともと私の家の近所に住んでいた。でも中学生の頃、Aちゃんが遠くへ引越しすることになったんだ。
最後にどこかで遊ぼう、と私が提案したところ、Aちゃんはすぐに「じゃあ鮭を見に行こう!」って提案してくれた。

「うんうん、鮭ね。」なんてすぐに納得できるはずもない。理解出来ない。
なかなかのクレイジー。
なぜ最後の別れの前に鮭なのか。

私の頭の中に浮かんでいたのは、切り身の鮭。
甘塩の。美味しいやつ。
でもね、Aちゃんが私を連れて行った先は近くの湖だった。
湖っていうか、正確に言えば、ただの池。
私たちが勝手に湖って呼んでただけ。
池に到着してはじめて、私は「あ、切り身じゃなくて生きてるやつか!」ってひらめいた。
(それでも別れの前に鮭なのは意味不明だけど。)

でも切り身の鮭を見ながらお別れ、なんてことにならなくて良かった良かった。
池のそばの石に腰掛けて、Aちゃんと池を眺めながらしばし雑談。
池をじっと見つめ続けたけど、鮭は現れず。っていうか虫すらほとんどいなかった。唯一見つけたのはタバコの吸殻。鮭との共通点はもちろん皆無。

「鮭、いないね……」って言った私に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるAちゃん。
彼女がポケットから取り出したのは、鮭フレークだった。
「鮭フレークって、切り身以下じゃん!」って思った。せめて切り身の方が鮭感あったよ!
鮭感てなんだかわかんないけども!

彼女のポケットからポロポロとこぼれる鮭フレークを私は今でも忘れることが出来ない。
しかもAちゃんは池からの帰りがけに手掴みで残りの鮭フレークをくれた。それに対して、「Aちゃん優しい!ありがとう!」って感動してた当時の私は、一番クレイジーだったのかもしれない。